2020年12月13日日曜日

20201213土手

10:00 現在、コーヒーはすでに一杯。エチオピアのウォッシュト。甘酒も飲む。


昨日は家から避難して、荒川を少し埼玉側に踏み越してみた。以前から気になっていた戸田漕艇場を初めて見る。全長2.5kmにおよぶ巨大なプール。東側の端を取り巻くように各大学の艇庫が並び、ジャージやウィンドブレーカー姿の若者たちが銘々トレーニングや舟のメンテナンスに励んでいる。正直こんなにも賑わっているとは思わなかった。大学のキャンパスにでも潜り込んだような気分になる。

西側およそ500m分は戸田競艇場になっており、境界部分に架かる歩道橋の上は打って変わって茶色いジャンパーに手を突っ込んで新聞をガサつかせるおっさんの背中でひしめいている。今時めずらしく、タバコの臭いがマスク越しにもはっきりわかる場所だ。橋の袂には(この種の施設にはつきものだが)バス・ターミナルまで整備され、やはり草臥れたジャンパーが詰め込まれた車体がゆらゆら列をなして回り込んでくる。周辺は中規模の工場やら倉庫やらががちゃがちゃひしめき、決して広くはない道路の左右に各社の警備員が手持ち無沙汰に立っている。


高架道路に押し潰されたように煤けて暗い大通りを横断した先の土手沿いには洪水に備えた荒川第一調節池が広がっており、その一部には「彩湖」なる名前の貯水池として水が張られている。彩湖は「さいこ」と読む。押しの強い名前だと思う。彩湖を横切る長い道路橋には「幸魂大橋(さきたまおおはし)」と名付けられている。これもまた主張が強い。いずれも「埼玉」およびその愛称(1992年考案制定という)である「彩の国」から名付けられたものなのだろう。なんというか、いかにも埼玉らしい、地方ヤンキーっぽい名前だと思う(いちおう埼玉を出身地のひとつとする人間として)。

今月から工事が始まるとのことで、水がほとんど抜かれた彩湖の西岸を歩き出す。礫石を敷いた堤頂の道が、分岐も何もなくひたすら続く。幸魂大橋の下をくぐってしばらくしたところで流石に先いきを不安に思って地図を開いたが、元来た道と同じくらいの距離をさらに歩いたところにようやく橋があるばかりで、しかもその先の鉄道の乗り合わせも大変微妙で、気が挫けて引き返すことにした。対岸にゴミ処理場やら下水処理場の排ガス発電所やらの煙突が煙を吐いて夕陽を鈍している。高草が擦れてカラカラと鳴いている。今はゴルフ場の人の気配があるとはいえ、そうでない時の侘しさはどれほどのものだろう。映画であれば重苦しいオーケストラと暗転で観客の胸を押し潰した上で、一点、静寂、白い部屋、みたいな展開が期待されるところだろう。


両脇を虚空に挟まれた狭い道。私たちを閉じ込めておくのはなにも高く堅固な壁ばかりではない。この足もまた。狭い足場の上に立ったとき、いまさらのように足の嵩張りに思い至ったりする。親指の根本の出っ張りが干渉しないように、左右の足を少し前後にずらして、土踏まずの下にそれを嵌め込んでみたりする。小指の際が足場の淵を撫で上げる。甲の立ち上がりはこうも急だったかと驚く。それに凭れてみたりする。


都営三田線の西高島平−志村三丁目間は高架線を走っている。車窓からぐっと距離を取って向こうには団地の玄関扉の地上何階目かの並びが見える。分けてもまた団地の玄関扉だ。何度かのターンを経て不意に車両は台地に横から突っ込む。車窓が暗転する。横転の可能性をそもそも排除した細い隙間を鉄道は走行する。車窓の向こうの空虚はただ見られるがままに帯状に延びている。


階下の恐怖。日曜。








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