昨日は階下に人の気配があり、恐ろしくて息を殺して縮こまっていた。お陰さまでKindle に入れていた千葉雅也『アメリカ紀行』を読み終えてしまう。著者はアメリカ滞在中、いくつかの貸部屋を移りつつ生活するが、そういえばこの著作中で登場する隣人は皆、隣室ではなく、下階の住人だ。
上下階の住人の気配というものには、隣室のそれとはまた別種の生々しさがある。私の踏む足の真下に他人の頭があること、こちらには音とも思われないような振動が階下の頭上に直に降り注ぐこと。廊下に沿って並ぶ水平方向の隣人たちに大量生産品じみた規律的な不気味さがあるとすれば、垂直方向の隣人たちは頭から足にかけての軸で串刺し状に配列されて、まるでチューブからひり出されるミンチ肉のような物質的不気味さを持っている。
高層マンションの最上階から地上階に向けて、垂直にしな垂れ落ちていく連続的な肉。上端は日光を受けてぬらりと照り光り、下端はとぐろを巻いて地に横たわる。口であり肛門であり、互いは互いを恐れている。地の上方へのどん詰まりとしての直立する肉、直立猿人。
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