いくらか寝坊。
夢を見た。喋る飛行艇2艇と一緒に陸路、旅をしている。私は片方の足下におり(フロート付きの水上機との区別は付いていない)そいつの姿は腹しか見えない。もう片方は時々ちいさなタンクローリーの姿に変わっていたりする。土の湿っぽい、視界の開けた土地を突っ切る夜の一本道にヘッドライトを投げかけて隊列組んで走ったり、あたりに何もない夜の駐車場でターンの練習をしたり、妙に急斜面になった細い裏路地を滑空し、その先でざっくりと厚手の生地で拵えた、背負子みたいなおおきな布カバンを買ったりした。
末端と肌は鈍く冷やすのに、肌上一寸に馴れ馴れしく生暖かい日だ。どうにもむず痒く、コンロ周りを掃除した。ケミカルに殺す。
最近近所でよく立ち話している若い男子の声質がどうも苦手だ。かなり正確に一定の間隔をおいて繰り返し、「いひひ」と笑う。会話の内容に対する反応というよりは、中身に関係なしに会話をとにかく継続させるための相槌として、「いひひ」とそれは線路を敷くようだ。
昨日も飽くまで駄目だったが、夜は幾らか本を読めた。ネット回線が酷く鈍い。音声がどうにも鬱陶しい。押し込めるように食べすぎる。
人の名を知るほどに、それだけ多くの訃報が目につくようになる。死んだとの報で初めて知る名前は少なくない。灰となって初めて届く。灰として初めて残り続ける。記憶は常に死臭を伴う。慎重に血肉を洗浄消毒された、ケミカルで清潔な、薄青紫色の死臭だ。
ネットの海に漂う無数の肖像写真、それは名声、賞典、ポルノ、親しみ、透明性、犯罪等々のかたちでクリップされて、あるいは毛穴のひとつひとつも露わに、あるいは親指の爪ほどに薄ら白くぼやけた面で、そのすべては潜在的になにかの遺影だろう。底も無いのに降り積り沈澱し、あるいは圧し固められ、変質し、また何かの拍子に掘り返されて、それは果たしてよく燃えるだろうか。そんなことを思う。
ネットは長いこと広大な海に喩えられて、つまりそこには陸地は無かった。いつの日か、降り積もった遺影の泥土、それにちょっとした地殻変動に揺すり動かされて許々袁々呂々と、そこに幾らかの陸土が生まれるだろうか。青紫の薄雲たなびく地にどこからか鈴の音がさやかに走る。
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